サンチアゴ・デ・コンポステーラから

 スペイン北西にある町、サンチアゴ・デ・コンポステーラに来ています。
 今回の旅の初日、マドリードに降り立った日はからりと晴れていたのですが、それ以来ずっと雨が降り続いています。強くはないけれど、しっとりとした冷たい雨です。雨が止んでいる時に出歩くようにしていても、すぐにポツリポツリと落ちてきます。こちらのお天道様は、東の果てから来た旅行者にはちょっと厳しいみたいですね。小降りのままなら上着のフードを被って歩くんですけど、本降りになるとどうしようもないので近くの教会に入ったり、バールでコーヒーを飲んだりしてのんびり雨宿りします。本当に容赦のない雨なのです。 

サンチアゴ・デ・コンポステーラ

 初めてのヨーロッパで、石造りの町の濃厚な密度に圧倒されています。重々しさは感じつつも、シンプルだけどデザインされたおうとつや彫刻があるためか、それほど圧迫感を受けません。雨が染み込んで濃くなった石の色のせいで、余計に落ち着いた印象を受けます。
 人や車の往来で摩滅し磨かれた石畳は、濡れていびつな鏡のようになります。それは、ある時は拡散した曇り空の光を鋭く集め、ある時は繁華街の通りに並べて吊されたクリスマスのイルミネーションを滲ませ、またある時は薄暗い路地に面した小さな古書店のショーウインドウからこぼれる古ぼけた照明を弱々しく映しだします。こういうのを見ているとコンクリートやガラス面の多い近代ビルやアスファルトの街が、なんだか浅はかで軽薄な空間に思えてきます。早速こちらにかぶれてしまったようです。

マドリード・マヨール広場

 この町には、フランスから続いているキリスト教の巡礼路の最終目的地である大聖堂があります。僕は長い道程を経てきた巡礼者ではないし宗教も違うし、その大聖堂は宿からせいぜい15分くらいで辿り着いてしまうんだけれども、路地の切れ間から見え隠れする尖塔が徐々に近付き、正面の広場に入って一気に視界が開けた時にやっと姿を現す大聖堂を目にすると、思わず跪きそうな気分になりました。灰色の空を背負ったスペインゴシックの威容は、細部まで装飾されてとても繊細だけれど、どっしりと落ち着き威厳に満ちて建っていました。やはり長年にわたり培われた石の文化と宗教が融合した、一つの完成形なのかなと思いました。石や建物のことばかりで硬い手紙になってしまいましたね。

サンチアゴ・デ・コンポステーラ

 今泊まっている宿は、スペイン語しか話せない白髪の見事なおばあさんが管理しています。背が小さくて目つきが厳しく四角い顔の女性です。昨晩僕は部屋の鍵を受付に戻さないまま外出していたので、えらい剣幕で怒られました。お互いに言葉が分からないから行き違いがあったみたいです。でも、怒っている顔は怖いけれど、濃いピンク色の地の厚いネルのネグリジェ姿なのがちょっと可愛らしかったです。
 今日も昼過ぎて雨が降り出したので、宿近くのバールに入り、人気のない通りを眺めながら書いています。

サンチアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂

( Santiago de Compostela / Spain / 2002 )