5-01 スピティへの道 01

 スピティとは、ヒマーチャル・プラデーシュ州の北東寄り、中国チベット自治区と国境を接する、サトレジ川とスピティ川によって作り出された渓谷と、6,000~7,000メートルの山々に囲まれた土地である。平均標高3,000メートル余り、周囲から隔離された場所柄のため、「神々の住む土地」「世界の中心」などと呼ばれているそうだ。住んでいる人々は大部分がチベット系で、我々にとっては親しみの持てる顔立ちをしている。全域にチベット仏教が浸透しており、大小を問わず多くのゴンパ(僧院)やチョルテン(仏塔)、小豆色の僧衣を着た僧達をあちらこちらで目にする。
 中心となる町はカザ。標高3,600メートル。路線バス(なんと、標高4,200メートルのキッバル村までも路線バスが走っている)で行くことができる。行き方はシムラからランブール、レコンピオを経由する北上型半時計回りルートと、マナリから標高4,500メートルのクンザン峠を越える南下型時計回りルートが一般的だ。

 そもそも僕がスピティを知ったきっかけは、
《最近『スピティの谷へ』という本を見つけた。僕の撮る写真の雰囲気に似ているし、お互いに興味を持っているヒマラヤやチベットの辺りの話なので読んでみたらどうか?》という友人からのメールだった。
 読みたいとは思ったが、僕の町の書店に並ぶような売れ筋至上一般庶民的な本ではなかったので、探してみたが見つからず、購買意欲と記憶の優先順位は徐々に下がっていった。しかし、インターネットで調べた時に見た表紙の写真がとても印象的で忘れられず、「スピティ」という単語も音の響きが気に入って、記憶に残っていた。そんな風に、頭の中でどんどんイメージだけが膨らんでいった。
 ところが、ダラムサラで想像の世界だったスピティが急速に具体化することになった。そこで知り合った旅行者が持っていたガイドブックに載っていたのだ。しかも、今いる町と同じ州である。情けないことに、その時までスピティがインドにあることすら知らなかった。
 僅か6頁足らずの簡単な内容だったが、僕にとってはこれで十分である。場所さえ分かったら何とかなるはずだ。行けと言っているようなものじゃないか、スピティが呼んでいる!などと、心の中で妙に興奮していた。こうして僕は、A4両面コピー2枚の情報だけを頼りに、憧れの地スピティを目指すことになったのだった。
 しかし、その道は予想以上に険しかった。