4-04 エローラ

 エローラ石窟群の北端にあるジャイナ教石窟群の第32窟に着いた時、先客であるインド人の家族連れが軽ワゴンのタクシーで帰るところだった。警備員以外いない石窟はとても静かだった。只の岩山を鑿だけで削り掘り下げ、刳り抜いて作られた石窟の内部は見事な彫刻が施されていた。三方を石壁に囲まれ中央に立つ小山のような存在感を放つ寺院も、1つの巨大な彫刻であるので継ぎ目が一箇所もない。同じようにして作られた第16窟のカイラーサナータ寺院は高さが50メートル近いが、そこにはこの後行くつもりだった。

 精緻な彫刻が刻まれた柱が立ち、生き生きとした表情や伸び伸びした姿態の仏像がそこここに居た。壁には部分的に鑿の彫り跡も残っている。がらんとした石窟は1,200年前の姿を彫り跡もそのままに留めているのだ。ここに居たであろう何百人もの石工や修行者達の影は最早見ることは出来ない。しかし彼らの残した信仰や情念、記憶の欠片などが、鑿跡の一筋一筋や僧房にある石の寝台の窪み、磨り減った石階段にこびり付き、降り積もっているように思えた。
 誰もいなくなり忘れ去られていた場所。暗灰色をした無機質な岩肌に周囲を囲まれていると、心の中の空洞がどんどん膨らんでいくような気がした。まるで自分の心の空洞を内側から眺めているような錯覚を覚える。その空洞はどんどん膨らみ石窟一杯に広がっていくのだ。
 からっぽの世界に一人取り残されてしまったような感覚。寂寥感、孤独感、空虚感。滅多に感じることのなかった感情。

 僕には会いに行ける人がいるだろうか。
 傍にいてくれる誰かが見つかるだろうか。
 この空洞が満たされる時は来るのだろうか。

 時折風が吹き抜けてゆく。
 ひばりの声が聞こえてくる。
 背筋が、ぞくりとした。

インド・カイラーサナータ寺院

( Ellora / India / 2002 )