3-11 山の男

「止めときな。お前さんにゃあ、きつ過ぎる」
「僕もそう思います」
 老人というにはまだ何年も先だが、顔に何本も皺が刻まれた男は両手で包み込むように持った筒状のパイプを深く吸い込み、美味そうに煙を吐き出した。

インド・マナリ マナリは山と山に挟まれた谷間の町だ。
 町外れから上の方にポツリポリと見える人家を目指して適当に登って、開けた斜面に建った家の前に居たこの地方独特の緑色のフェルトを使ったつばのない筒型の帽子を被ってらくだ色の暖かそうなジャケットを着た50代の男性に挨拶をしたところ、ゆっくりしていけと勧められた。
 僕は庭先の縁側に座りチャイを飲みながら向こうに見える雪を乗せた山を眺めたり、ポツリポツリと彼と話したりしていた。良い天気で周りの木々は眩しく輝き、春の晴天のように雪山の上の空はぼうっと霞んでいた。

 暫くすると斜面の上の方から同形状の帽子を被り青いネルシャツにジーンズという格好の、家の主人と同じような歳の男がぶらりとやってきて主人と二言三言言葉を交わした後、僕をちらりとみたが全く気にすることなく横に腰を下ろした。
 その男はポケットから小さな箱を取り出し、その中に入っていた小指の先程の大きさの黒い松脂の塊みたいなものを左の手の平に乗せて右手の親指で揉み込むようにほぐし始めた。2分ほどその作業を続けた後今度は煙草を取り出し詰まっている葉っぱだけを手の平の上に器用に揉み落とし細かく砕けた先程の黒い塊と念入りに混ぜ合わせ、別のポケットから取り出した長さ12、3センチで大きい側の直径が3センチ強の円錐の先端を切り取ったような形の素焼きの筒に慎重に詰め込んでいった。
 一連の下準備をしている間に家の主人が屋内に入り湿らせてきたガーゼを受け取ると、男は筒の細い方の口にあてがいライターで火を点け煙が出始めたのを確認した。
 そして一服、ゆっくりと大きく吸い込み煙が肺の隅々まで行き渡るのを楽しむように暫く息を止め、目を細めながら煙を吐き出し3回ほど同じ動作が繰り返された後筒は家の主人に渡された。彼も同じようにゆったりしたリズムで煙を深く吸い込んでいた。
 赤茶色の小さな筒に注いでいた僕の視線に気が付いた青いシャツの男は、吸ってみるかというように筒を少し僕の方に持ち上げてみせたが、僕が暫し逡巡した末彼の勧めを丁寧に辞退すると目を細めてにやりと笑い、
「止めときな。お前さんにゃあ、きつ過ぎる」
そう言って、老人というにはまだ何年も先だが、顔に何本も皺が刻まれた男は両手で包み込むように持った筒状のパイプを深く吸い込み、美味そうに煙を吐き出した。

インド・マナリ

( Manali / India / 2002 )