3-07 弘法も砂の誤り

 遂に砂マンダラが完成したようだった。
 僧達はほっとした様子で、周りにこぼれた砂を掃いたり仕事道具を片付けたり、座布団の上に座ってジュースを飲んだりし始めた。
 僕は見ているだけだったが、それだけでも緊張して肩に力が入ってしまうほどだった。だが、伊達に見ていただけではない。さっきから気になっている部分があった。
 色を一箇所入れ忘れているのだ。
 最後に偉い僧が儀式的に砂を落として完成させるのかとも思ったが、道具を片付けているところをみると、そうでもないようだ。
 僕は、一緒に見ていた日本人女性に聞いてみた。彼女は今までに何度か砂マンダラの製作過程を見たことがあったからだ。だが、彼女もそれに気付いていなくて、理由も分からないと言った。そこで、彼女にチベット語で尋ねてもらうことにした。
近くで道具を片付けていた若い僧がそれを聞いて「あちゃー」と妙な感嘆詞を口にし、そそくさと砂を入れ始めた。
 ただ、忘れていただけだったようだ。
 今回の砂マンダラが無事完成して、その後のプージャ(僧達が50人くらい集まって毎日お経あげたり、仮面を付けて舞を舞ったりする)が恙(つつが)無く行われたのも、多分僕のおかげなのである。

インド・ダラムサラ

( Dharamsala / India / 2002 )