3-01 地平線の向こう

 カトマンドゥ盆地を抜けインドとの国境に近づくにつれて大地は平らになり、それに伴って気温も上昇していった。昨晩泊まったスノウリではじっとりした湿度がやけに気になった。カトマンドゥでは薄い毛布を被って寝ていたのだが、久し振りに天井の扇風機が回るがたがたとした騒々しい音を聞きながら眠った。
 マイクロバス(TATA製ではなかった)に乗り換え平原に筋を引くようにして伸びる道路をひたすらに走った。道路脇には名前は知らないがよく見かける背の高い葉色の薄い広葉樹が街路樹のように立ち並び、その向こうは枯れた平原か雑木林か水が入る前の乾いた田圃だ。茶色や緑色に濁った沼や溜池が現れ、水牛が悩み事など何一つ無さそうな顔でのんびり水浴びをしていた。時には裸の子供達も水遊びをしていた。幾つかの町の中を走り抜けた時は、今までの人気のなさが嘘のような、人と牛とサイクルリキシャー、オートリキシャーの大群を避けながらゆっくり進まねばならなかった。

 無秩序、という言葉が当て嵌まる光景。カトマンドゥも雑然とした街ではあったが、そこかしこに古都らしい落ち着いた雰囲気があり、木材を多用した建物や比較的穏やかな気候のおかげで居心地は悪くはなかった。しかしここでは、初めての土地に多少なりとも身構えている僕の余裕の無さが影響しているのか、次々に目に飛び込んでくる光景に馴染んでいくことの困難さを覚えた。そして、気候も土地の様子も、町や人の雰囲気も、それぞれが強く反発しあっているような、気安く触れると怪我をしてしまいそうな鋭さや厳しさみたいなものを感じた。
 地平線が見える。西の空、雑木林の上、あと僅かで燃え盛る炎が木々の天辺に触れてしまいそうなほど低い位置に、1日が終わってしまうことに必死で抵抗を試みているかの如く真っ赤に染まった太陽がじわじわと滲んでいた。しかしどんなに逆らってみたところで、太陽は沈む運命にある。明日の朝になれば再び空に昇り、そしてまた沈む。永遠の繰り返し。昨日と今日、今日と明日で変わることは何もない。
 同じように、昼であろうと夜であろうと、今日であろうと明日であろうと、笑っても傷ついても、目に見えない国境の向こう側でもこちら側でも、何時も何処でも自分は自分であることに変わりはない。ならば、何処の空の下であっても自分の旅をしていけばいいのだ。不安はあるが仕方がない。仮令沈んでしまっても、また必ず昇ってくるのである。
「そのためには生命を大切にすること。そして打たれ強さが必要なのかもしれない」
 僕はぼんやりそんなことを考えながら、早くも半分は雑木林の向こう側に隠れてしまった、色が薄くなり黄色味を帯びた太陽を見つめていた。まだまだバラナシに着きそうもない。

( India / 2002 )