Piece.11 「照笑」

 バイクで走ることがこんなに気持ちの良いものだとは思わなかった。
 爽快感・開放感・そして疾走感。そのどれもが今まで経験したことのないものだった。
 見上げれば空には雲ひとつなく目が眩むほどの青空が広がっていた。丘が連なる丘陵地帯の間を縫うようにして道が続いていた。軽い起伏を保ちながら果てが見えないくらい真っ直ぐな道に出ると、無意識に右手のスロットルに力がかかりスピードが上がっていた。レンタルしたホンダの150ccは快調に速度を上げていき、風を受ける髪の毛は抜けてしまいそうなくらい後ろの方になびいていた。時速は分からない。スピードメーターは0を指したまま動かなかった。速度が分かっていたなら多分もう少しゆっくり走っていただろう。

タイ・ゴールデントライアングル タイの北端、ミャンマーと小さな川を隔てて国境を接しているメーサイという小さな町から東へ1時間30分ほど離れたチェーンセーンを目指していた。そこから目と鼻の先にはタイ・ミャンマー・ラオスがメコン河を隔てて国境を接する“ゴールデントライアングル”があった。のどかで風光明媚なこの三角地帯は観光・リゾート地としても知られているが、同時に世界的な阿片栽培地帯としても有名であった。

タイ・チェンセーン スピード違反で捕まることも転ぶこともなく無事にチェーンセーン市街に到着した。日曜日ということもあり、町の中心にある通りには露天や屋台が並び人々で賑わっていた。僕はそこで何かの実を絞った味が想像できないジュースを飲み、「結構おいしい」などと思いながら一休みしていた。
 姉妹みたいなオバサン2人に連れられて、これも姉妹だと思われる女の子2人が歩いていた。彼女達はこの周辺に暮らす少数民族の人らしく、オバサンは黒く染めた厚めの木綿をベースに、青・赤・黄・白など色鮮やかでシンプルな幾何学模様を刺繍した襟口・袖口、同様の刺繍の入った帯を締め赤い布をリボンのように腰に巻いた民族衣装を着ていた。女の子2人は普通の服を着ていた。

タイ・チェンセーン 2人は楽しそうにはしゃぎながらオバサンの周りを付かず離れず、時折露天などを覗き込んでいた。ちょっと僕ら日本人のことを気にしているようだったので、近づいていってカメラを向けるとオバサンの後ろに隠れてしまう。でもまたすぐに2人で笑いながら横から顔を出す。オバサンはマイペースに露天をひやかしながら歩いているが、僕らのやり取りに気付いたようで一人のオバサンは一緒に笑い、もう一人はちょっと困った顔で自分の陰に娘を隠そうとしていた。それでも女の子達は照れながらはしゃぎながら笑いながらこっちを見たり隠れたりしていた。通りの賑わいの中に2人の笑い声が広がっていった。
 やがて彼女達は僕の横を通り過ぎていった。

( 1998 / ChangSen / Thailand )