Piece.08 「階段」

カンボジア・タケウ バイタクを降り、戻る大体の時間を運転手に告げて遺跡の方へ歩いていった。
  外壁の階段の辺りで女の子が2人腰掛けてなにやら喋っていたが、僕のことに気付いたようだった。木製のアクセサリーを入れた手提げ籠を持った10歳くらいの女の子と、その妹らしい、腕輪を何個か握り締めた6歳くらいの女の子だった。
  「ハロー」「ハロー」
  「こんにちは」
  自分達の売物を見せてきた。こげ茶色と白の2色に染めた木の皮を編んで、デザイン化されたアンコールワット寺院がモザイク模様になっている腕輪だ。
「ワンダラー、ワンダラー」
「これ1ドルは高いやろ」
「ツー、ワンダラー」
「2個か。3個で1ドルはどう?」
「オーケー」(してやったりという表情)
「それじゃあ、このネックレスと腕輪4つで1ドルは?」
「ノー、ノー」(ここで妥協してはいけないという様子)
「あかんの?でも、そんなにいらないんやわ。この腕輪1つはいくら?」
「ワンダラー」(当然だという様子)
「安くなってえんが。500リエル?」
「オーケー」(妥当な値段だという様子)
「じゃあ、君のはいくら?」(一緒にいる妹に聞いてみる)
「ツーダラー」(当然だという様子)
「なんで?」
「?」(きょとんとしている妹にお姉ちゃんが何か言っていた)

 そうこうしているうちに回廊は見終わり真中の一番高い塔を上り始めた。1段1段の高さが50センチくらい、巾が30センチくらいの非常に急な階段だった。よじ登るという感じで一番上に到達した。
 高い所からアンコールを見渡すと、周りにはずっと森が広がりその中にポツリポツリと石の塔や建物が顔を覗かせていた。

カンボジア・タケウ このころには姉妹も熱心に商売をしようというのでもなく、少し離れた所で2人おしゃべりをしていた。何を話しているのかは全く分からないのだけれど、とにかく楽しそうだというのは伝わってくる。こっちまでそれが移ってしまって気分が良くなり腕輪の1つでも買おうという気になり見せてもらうことにした。じっくり見ると手造りなので微妙に色が違っていたり形が歪んでいたりしていて、その歪みもなんだか味があるように思えた。結局腕輪1個を500リエルで買うことにした。
「サンキュー」「サンキュー」
 まさか買ってもらえるとは思っていなかったのか、ちょっと戸惑いながらも嬉しそうにそう言った。
 結構時間も過ぎてしまい戻ることにしたが、またこの階段を下りるのかと思うと少し気が重かった。お姉ちゃんが慣れた足取りで一気に下まで行き、こちらを見上げてニヤっと笑った。
 「おー、すごいなあ」

カンボジア・タケウ 僕はそう言って内心負けるものかと意を決してなるべく巾の広い段を探しながら下っていった。一歩を踏み出してしまえばあとは簡単だった。お姉ちゃんの横に辿り着き、僕もニヤリと笑い返した。

 振り返ると妹の方はまだ下から3分の2くらいのところにいた。場所によっては自分の腰くらいの高さがある石段を裸足でリズミカルに足を運んでいた。この子たちの逞しさを少し感じた。
 「バイバイ」
 気が付くと空が雲に覆われ始めていた。
 僕はバイタクの方へと駆け出した。
 彼女たちはまた遺跡の中に入っていった。

( 1998 / Ta Keo / Cambodia )