Piece.06 「海っ子」

 サムイ島の空港には驚いた。
 タイ湾に浮かぶ大きなリゾートの島だと思っていたが、草っぱらにアスファルトの滑走路があるだけだった。そして、空港ターミナルには壁がなかった。柱が建ちその上に屋根が乗りその下にカウンターや待合室があった。脇には椰子の木が立っていた。いかにも南国だった。
 僕と一緒に降りた乗客は、次々に乗合トラックタクシーやバイタクで島の東側にあるチャウエンビーチの方へ走り去っていった。15分ほどで客引きをするドライバーも旅行者もいなくなり静かになった。僕は1人、島の北側にあるはずの港を目指し歩き始めた。船でサムイの北に浮かぶタオ島に渡るためだった。

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 時折雲が晴れて強い日差しが指すものの、空の大部分は厚い雲で隠されていた。灰色の重たい雲からは今にも雨が降り出しそうで、出来ればその前に港に辿り着きたかった。太陽があまり顔を覗かせないおかげで少しは暑さが和らいでいたが、それでも蒸し暑く次から次へと汗が噴出してきた。
 雑木林みたいな場所を抜けて海沿いの道に出た。
 三叉路にはペプシやセブンアップの看板、不動産関係の看板、島同士やタイ本土とを結ぶスピードボート会社の看板などが並んでいた。そこを左に曲がり200メートルほど歩くと小さな川があり右手の海の方へ流れ込んでいた。昨日も降っていた雨のせいで川の水は茶色く濁っていた。河口にはボロボロになった廃船が何艘か打ち捨てられていた。その横には木造で高床式の家が何軒か建っていた。床の下には黒い犬が寝ていた。

 川と海が交じり合う辺りでガキンチョたちが遊んでいた。汚い泥色の水だったが汗まみれの僕にはとても羨ましく見えた。僕に気が付いたのか手を振っていた。道の端まで行くとちょっと寄って来て口々に何か言い、また遊び始めた。楽しそう、というよりむしろ気持ちよさそうなので、もっと近寄ってみることにした。
 土手を降り廃船を乗り越え砂地に降りるとガキンチョたちはワーッと集まってきて口々に喋ってきた。おまえは誰だ、なんていう名前だと言っているようだったので、俺は名前を言い、タイ語で挨拶をした。

タイ・サムイ島
 近くで見てもやっぱり泥水だった。なんで向こうのきれいな海のところで泳がんのや?と日本語で言ってみたが、笑うだけで相変わらずはしゃいでいた。しばらくタイ語と日本語で、通じているのか通じていないのか分からない掛け合いが続いた後、その場をあとにした。
 程なくして、遂に雨が降り出した。

( 2001 / Ko Samui / Thailand )