Piece.04 「茶目」

 昨日の16時の船でタイ南部にあるタオ島を離れチュンポーンへ。
 そこから20時発のバンコク行きの夜行バスに乗り換え約9時間。
 今朝5時にバンコクのカオサンロードに辿り着いた。

タイ・バンコク タイのバスはたとえそれが夜行であったとしても、かなり大きな音で音楽を流し続けることがある。その音楽がタイ独特の、オッサンが歌っているチャカポコした打ち込み系演歌であったならば、乗り合わせたバスが悪かったと諦めるしかない。
 しかも、どういうわけか思いっきり温度を下げて冷房をかけることが多かった。初めて乗ったときに凍えた経験を活かし、夜行バスに乗る場合は常に長袖シャツを着て毛布を被るようにしていたにもかかわらず、今回もその甲斐もなく寒さに震えながら長い道のりを座る羽目になった。 タイに暮らしている友人に聞いたところ、音楽も冷房も運転手が居眠り運転しないための防止策であると、本気冗談ともつかない答えが返って来た。多分、事実なんだろう。

 寒さと長距離の移動のせいで熟睡できなかった身体には湿度の高い真夏のバンコクは少々厳しく、ゲストハウスの前のベンチでボーっとしていた。まだ7時頃だというのに太陽は高く容赦なく町を照らしていた。

タイ・バンコク  今日は何をしようかボンヤリ考えていると、向いのゲストハウスの前でチョロチョロしていた6歳くらいの女の子が寄ってきた。

 最初は静かだったがだんだん喋るようになってきた。しかし当然タイ語なので分からないから適当に相槌を打って相手をした。こんなときは言葉が通じようと通じまいと関係ないのだ。
 女の子がカメラに興味を示したので使い方を教えると、楽しそうに犬やら僕やらを写していた。
 しばらくするとついて来いと先に立って歩き始め、僕は手を引かれながら後を歩いた。 路地を抜けた通りに改装中の建物があり、女の子はその奥に入っていくと黒い子犬を抱いて出てきた。そして女の子と僕と子犬は、午前中のカオサンロードをてくてく歩いた。
 最初は自分で抱えていた子犬だが、疲れてくると女の子は僕に持ってくれと言ってきた。
 土産物屋やら屋台やらが軒を連ね世界中からのバックパッカーが往来する通りを、小さな女の子の後ろを子犬を抱えてフラフラ歩く日本人はどう思われているのやら想像が付かなかった。
  僕は暑さと疲れと空腹でクラクラしていた。途中で女の子はコンビニに入り、棒付きのチョコレートを買って出てきた。半分を自分で食べ、半分を僕にくれたのでありがたく頂くことにした。
 1時間くらいかけてやっともとの場所に戻り、子犬を母犬の元に返した。「勝手にお母さんの所から連れてきたらあかんよ」と説教したが、日本語なので通じてはいないだろう。
 宿の前まで来ると、女の子の母親と僕の泊まっているゲストハウスの女主人が世間話をしていた。
 そういえば朝食も食べていなかった。
 取り敢えず、カオサンに着たときはいつも食べるようにしているお粥の屋台を目指した。

タイ・バンコク

( 1999 / Bangkok / Thailand )