Piece. 04 「鼻歌と工場」

[2011-04-06_16:54]

 瓦礫の散乱する港の先で男性を見かけた。

 鼻歌を歌いながら低いコンクリート塀の上を歩いていた。
 僕はこの辺りの方ですか?と声を掛けた。

 その男性は鼻歌と変わらない調子で「ここ俺の工場」と言って、港とその向こうの防波堤の間を指差した。
 海に接しているコンクリートの地面は半ば抉れていて、工場が建っていたであろう場所には木材が何本か倒れているだけだった。言われるまでそこに建物が建っていたことすら気付かなかった。
「舟だけが残ってるんだけど、あれがあってもなあ。なんであんなのが残ってしまったんだろう」
 独り言のように言いながら、防波堤の上にある舟を見つめていた。

 僕たちのいる港を夕暮れの光がほんのりと赤く染め始め、近くのスピーカーから音割れした童謡が聞こえてきた。この地区の17時のサイレンだ。津波の前から変わらないメロディーなのだろう。
「お、5時か。そろそろ夕食だから戻らないと。避難所暮らしだから時間の融通がきかねえんだ」
 そう言って、男性は軽自動車に乗って去って行った。

 僕はがんばってくださいとしか言えなかった。

[2011-04-06_17:05]

[2011-04-06_17:00]

/* 花淵浜近く — 宮城県七ヶ浜町 — 2011 */